エシカルノマドの指南書

世界放浪からオーストラリアへ移住後、物書きを生業とすべく帰国。自然に沿った暮らしをテーマに発信、今はエシカルとノマドの両立を目指す日々です

「日曜の夜はたこ焼きにしよう」【エッセイ】

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ちょっと昔、一回りほど年下のフランス人と、恋愛していたことがあります。

 

シドニーで出会い、一旦離れて遠距離をした後、日本でちょっと一緒にいただけの関係です。付きあうほど確実なものはなく、でも一晩で終わるほど簡単なものでもなかった。

 

そもそも私は、最初彼のことは、まったく目に入っていませんでした。初めて出会った日の後、びっくりするほど顔も覚えていなかったくらい。タイプではなかったのです、背ばかり高くて、なよっとした年下男のことが。

 

でも彼は、噛めば噛むほど味が出るスルメのようで、一緒に居ればいるほど、どんどん心地よくなっていったのでした。

 

で、半年に及ぶ遠距離の後、彼は日本に来たのです。

 

まさかと思ったけれど、何ヶ月も前にチケットを買って、彼は嬉々としてやって来ました。こうして日本で会ったところで、先は見えている。どうしてそんなに純粋で嬉しそうにいられるのだろうと思いましたが、やはり彼は純粋でそして若かったのです。

 

でも結局、そのピュアさにほだされて、私もいつしか彼といるとにこにこと平和ボケしてしまい、2人でバカップルぽく楽しく過ごすことができました。あれは、彼の大らかなピュアさのおかげだと思います。

 

それはさておき、おっちょこちょいで頼りない彼が、私にアドバイスをくれることは稀なことでしたが、ひとつだけ今でも私が影響されていることがあります。

それは、2人で遠方から帰って来た日の夜。「今日ご飯どうするー?」と、私が冷蔵庫を開けようとすると彼がそんな私を制して、言いました。

 

「今日はたこ焼きにしよう。」

 

「え?」と返すと、「今日みたいに出かける日曜日は、フランスではお惣菜とかを適当に買って来て摘まんで、ワインを飲むんだ。手抜きの日曜日だよ」と彼は言ってニヤリと笑いました。

 

真っ青な目に金髪の彼の口から出た「たこ焼き」、という提案が印象に残っています。

それはもちろん、この滞在中に「大阪の名物やねん!」と得意気に何度も彼に食べさせたからこそ、湧いた知恵でした。彼の中で「たこ焼き makes mia happy」とでも植えつけられていたのでしょうか、そう思うとなんだかとても微笑ましい。

 

そして、このときも嬉々として彼は、このときもう行き慣れた近所のたこ焼き屋さんへひとりで向かいました。そして、帰りに大ビールを2缶も買って帰って来たのでした。

 

 

最近のある日、それを思い出したんです。出先から戻って最寄り駅を出て、あぁ今日、日曜日だ!たこ焼きにしようって…。

 

そんな風に、好きな人と作った小さな思い出は、その後もお互いの中に生きることがあるんだなぁと、胸が温かくなりました。

 

たこ焼きのないフランスの田舎に帰った彼が、同じ理由で私を思い出すことはないにしても、きっと、何か別のシーンで私との時間を思い出してくれてるかもしれない、と思うとなんか少しきゅんとするのでした。

 

例え、先が見えた恋愛ごっこだって、大人ぶって冷たくあしらわずに、その瞬間を優しい気持ちになって抱き留めること。だって、それは後々になってその人生をほんの少し、豊かで味わい深いものにするかもしれないのですから。