駅からの景色。遠目に余呉湖が見える
「予約は半年後まで取れませんね。」
そんなことを聞いたら、ますますそこを訪れたいと想いが募るのが人の性。
滋賀県の琵琶湖のさらに北に位置する余呉湖、その畔に佇む「徳山鮓」さんがまさにそう。
「徳山鮓」さんをそこまでの存在にしているのは、界隈の郷土料理である鮒鮓とジビエの存在です。
正直なところ、お恥ずかしながらフーディーなら知らない人はいないというその存在を、私は存じ上げていませんでした。それが急に決まった取材で、お仕事としてですが訪れることになったという幸運。
事前準備として調べるほどに、出てくる出てくる「徳山鮓」さんの伝説を伝える記事の数々が…。
そもそも関西に住んでいても、滋賀県を訪れたことは人生に数えるほどしかなく。ましてや余呉湖やその辺りの郷土料理といわれてもピンと来ない。ただ、あの強烈な匂いを放つ発酵食、鮒鮓の存在は知っていたし、食べたこともありました。
あの鮒鮓でここまで、そしてジビエとの2本柱でここまでの名店になるとは…只者ではないと思い俄然興味を持ち、胸を高鳴らせて取材へ向かうのでした。
その前後は京都の山間部では雪がちらつき、部分的にうっすら積もってさえいたほどの寒い時期でした。やっと確保いただいた取材の時間に間に合わなければ大変、とのカメラマンさんの判断で、車ではなく2人列車で「余呉駅」を目指します。
京都駅から列車で琵琶湖をぐるりと回って約1時間半、無人駅であるJR「余呉駅」へ。
駅からすでにうっすらと視界に入る余呉湖、そして周りに広がるのどかな田園風景が、寒空の下寂しい印象すらあります。想像より雪は積もっていませんが、やはりちらほら降っていました。
さ、寒い…。そんな中タクシーに乗って5分弱ほどで、和オーベルジュ「徳山鮓」へ到着です!
立派な佇まいの日本家屋
暖簾の先の体験に期待が高まる
暖簾をくぐり挨拶をすると、笑顔で迎えてくれたのはご主人の娘・舞さん。館内を案内してもらいました。
ダイニングルームのひとつ。グループで食事を楽しめる
テラスからは余呉湖が眺められる。夏にはこの椅子で食前酒などを楽しむのもいい
今回の取材では実はご主人・徳山浩明さんにはお会いできませんでした。
でも聞くところによると、食材の湖や山々の恵みはご主人本人が足で集めているのだとか。ご自身が山に分け入りキノコや山菜を採取し、湖に船を出して天然鰻やナマズ、ワカサギを捕り、野菜やハーブは自家菜園で育て、ジビエは知り合いの猟師さんから分けてもらっているそうです。
テーブルに運ばれて来る全ての食材が、ほぼここから視界に入る自然から集めたのだということは、なんという贅沢でしょうか。余呉の自然を余すところなく使い切っているとは、まさに究極の地産地消です。
さてこの日、取材に用意いただいたのはこちら。
手前から時計回りに「季節の前菜盛り合わせプレート」、「鯖の熟れ鮓」、「鮒鮓」、「飯を使った発酵アイス」
発酵食である鮒鮓を主軸に据える「徳山鮓」さんですが、 もうひとつの名物はジビエ。
前菜のプレートにはジビエ肉のテリーヌや熊のサラミはじめ、インゲンに荏胡麻をまぶして揚げたものやミョウガ、菜の花、ワカサギの南蛮漬け、花豆、花かぶら、茄子の煮ごこり、スナップエンドウが並びます。山椒を発酵させたソースが添えられ、好きなものにアクセントとして付けていただきます。
季節の素材で内容は変わるので、このプレート上を見れば余呉の季節が一目瞭然です。
そしてこちらが心待ちにしていた、熟れ鮓の概念を覆すとも言われる「徳山鮓」さんの鯖の熟れ鮓と鮒鮓です。
まずは、お皿の上に花が可憐に咲いたような、鯖の熟れ鮓を。
吉田牧場のチーズ「カチョカバロ」と鯖の熟れ鮓、トマトの発酵ソースが織り成すハーモニーが楽しめる一品です。フレーク状に削りふわふわな口当たりにした「カチョカバロ」チーズと熟鮓が絶妙に引き立て合うのは、どちらも発酵食品だからなのでしょう。深い味わいはあるものの、こってりはしていないどころか軽やかで優しい味わいに。トップに飾られた実山椒もいい仕事をしています。
さて、そしていよいよ今回の主役、鮒鮓です。
「苦手な人が多いからこそ、美味しい鮒鮓を作る」という想いで作られた唯一無二のスペシャリテ。
ヨーグルトを濃縮したような酸味と、ねっとりと舌に馴染む滋味深い味わい。上に掛かっているのは余呉産100%の百花蜜で、その濃密な甘さと酸味でその部分だけまた別の味わいを生みます。隣はパンで挟んだ「鮒鮓サンド」、こちらはより食べやすかったです。
あぁ、これがレジェンドの発酵食と呼ばれる鮒鮓…。しばし余韻に浸ってしまいます。
でもできることなら仕事を忘れて日本酒を頼みたかった、そう、どれほどに切望したか。鮒鮓と日本酒をちびちびと交互にいただくループはきっとエンドレスだったことでしょう。
最後は、「飯を使った発酵アイス」で〆。チーズのごとく濃厚で、簡単には崩れない弾力があり初めての食感でした。梅ジャムとクランブルが味・食感のアクセントになっていました。
残念ながら店主の発酵への想いを聞くことができなかったのですが、その情熱から生まれたお料理を通して、色々と受け取らせていただきました。きっとご縁があればまたいつか、ですね。
さて列車でしたし、日帰りだったので「徳山鮓」さんで過ごす目くるめく時間は、ここまで。往復3時間の列車旅、窓の外の雪景色も相まって、まるで非日常の旅路のようでした。
日本の発酵食・伝統料理の奥深さ、その入り口を少しは垣間見たような気がする、余呉湖からの帰り道なのでした。
こんな機会をいただけて、感謝です、某編プロEさま♡
「徳山鮓」
Open:12:00~14:30、18:00~21:00
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